好きこそもののなんちゃら

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聴いた人たちがいろいろな解釈や感想を話題にしがちで、

岡崎体育がただちょけるだけの人ではないことを強く印象づける、

圧倒的名曲とでも言っていいでしょうか。

 

タイトルの「式」に込められた意味が幾重にも重ねられているようで、

聴く人それぞれの解釈につながっているように思います。

 

 

人生の「始期」と「死期」、

その節目節目に訪れるたくさんの「式」、

その間繰り返し巡る「四季」、

そこに彩りを与えてくれる「色」・・・

 


優しさや温かさをただ表現するだけでない、

現実をしっかりと見つめて一つひとつ紡ぎ出されたような日本語の美しさが際立つ一曲です。

 

さすが、紫「式」部パイセンと同郷なだけありますね。

 

 

♪「相槌もでたらめ 鈍色の朝」

♪「わがままに 迷惑かけたいわけじゃないのに」

 

この曲を通して聴いた後、

これは年老いて認知症になった家族をイメージしているように思うけど、

一方で、つづきの歌詞をふまえると、ここではまだ、

小さな子どものやんちゃな様子を言っているのかもしれないとも思う。

 

この時点でもう、岡崎体育ならぬ岡崎国語の世界にいざなわれてしまっています。

 

 

♪「保育園で汚い言葉を 覚えて帰ってくるように いろんな色の絵具を 脳みそに塗ってくみたいだ」

 

鈍色で始まっただけに、「いろんな色の絵の具」が鮮やかに際立ちますね。

 

いいことも悪いことも、人生を通していろんなことを積み重ねて人間は形づくられていくんだと、改めて気づかされます。

 

そしてその節々には様々な「式」がある。

「保育園」という言葉が、そのことをより鮮明にしてくれます。

 

 

♪「鉄棒の香り冷たく 美しい名前は遠く 薄暮れに木霊して 約束を破って ひとり洟垂る僕を叱って」

 

「5時までには帰るのよ」っていう約束を忘れて、

薄暗くなって親が名前を呼びに来るまで遊び耽ってしまう、鼻水垂らした少年を僕はイメージしました。

 

 

♪「相槌もでたらめ 柿色の夕」

♪「わがままに 迷惑かけたいわけじゃないのに」

 

この曲は、色の使い方がすごく詩的ですよね。

ここからは、人生の晩年に想いを馳せる展開です。

 

 

♪「年老う指輪は弛み 填めなおしてはまた弛み」

♪「瞳に黴が生えても 言葉に血の通った話がしたい」

 

YouTubeやXでも、この部分の歌詞に対する反響がすごく多いと感じます。

僕も、この歌詞に心が震えました。

 

90歳になった僕の祖母も認知症を患っていて、僕のことがもうわかりません。

僕は一番最初の孫で、一番可愛がってもらっていました。

 

そんなおばあちゃんが、まだ生きているうちじゃないと、この曲の感想はつらくて書けないと思い、筆を進めています。

 

 

♪「先に呆けてしまえば 寂しくないかな」

 

この歌詞には、「きっとそうじゃない」という気持ちが込められているんだと思います。

 

 

僕の名前を初めて呼べなくなったとき、おばあちゃんは「ごめんね」と言ってくれた。

僕たちも寂しいけど、それ以上におばあちゃん自身が寂しいんだと痛感した出来事です。

 

 

医療が発達して、人間はとても長生きになりました。

それはすごく素晴らしいことだけど、

脳みそのバッテリーが持たなくなるほどに、

身体的に生かされる期間が長くなり過ぎたのかもしれません。

 

 

♪「飯を口から零して テイブルを汚して にたついてる私を赦さないで」

 

普通のハートフルソングであれば「ゆるして」ってなりそうなところを、

あえて「赦さないで」と言うところに、現実を感じて胸が苦しくなります。

 

「テイブル」という表現にもこだわりを感じますね。

 

 

♪「相槌もでたらめ 雪色の夜」

 

鈍色の朝→柿色の夕→雪色の夜と、時間や季節の変化が美しく表現されています。

 

現代版『枕草子』みたい。

紫式部の作品じゃないのがちょっとおさまりが悪いなと思ってしまって、清少納言さんごめんなさい。)

 

 

♪「どうして迷惑かけても笑ってるの」

 

ここまで、「迷惑かけたいわけじゃないのに」「僕を叱って」「私を赦さないで」と面倒を見られる側の視点でしたが、

 

最後の最後に、見守る家族の側の視点に移ってこの曲が終わるところにも、

グッとくるものがあります。

 

 

 

体育くんがただコーヒーを淹れるだけのMVも、何でもない日常感があって、とても好きです。

 

歌詞が深い分、その意味を考えることを邪魔させない、そんな配慮すら感じます。

 

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次は、「Fight on the Web」です。